矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 167


☆ 「を」と「から」の違いは・・・?
 

ここは日本食レストラン。日本語が大好きな上級者数名と会食を
していた。そしてある男子生徒がトイレから戻ってくるなり、突然こんな
質問をしてきた。「トイレを出る」と「トイレから出る」は何か違いがあり
ますか、である。トイレの前で待っていて、やっと前の人が出てきたとき、
ふと思いついたらしい。

いわゆる「を」と「から」の違いである。確かにこの場所に関する「を」と
「から」は日本語教師としてもなかなかやっかいである。ちょっと焦ってし
まったが、早速日本語講座が始まった。


 先ず、こんな例文を出した。「家を出る」と「家から出る」である。この
二つに何か違いを感じますか、と質問した。すると「家から出る」は使った
ことはないが、意味は同じだと思います、である。では、「大学を出る」と
「大学から出る」はどうですか、と聞くと全員「大学から出る」はおかしい
です、と答えた。

そこで、例えば携帯電話などで「いま大学から出ました」はダメですか
と質問すると、その場合ならいいですが・・・、全員ちょっと困った顔に
なった。そして更に説明を続ける。でももし学歴などの話しをしている
場合には「大学から出ました」はどうですか、と聞くと、それはおかしい
です、と答えた。確かに「彼女は
UBCから出ました」はおかしい。
「彼女
UBCを出ました」と「を」しか使えない。

 やはり「を」と「から」にはかなり大きな違いがあり、我々日本人はちゃん
と使い分けているのである。でもさすが上級者、何人かは何となく違い
が分かったようで感心してしまった。
ここでこんな説明をした。場所に関
する「を」はその場所において何か特別な行為やその後の動作まで
想像させる機能があり、「から」はその場所での動作だけを強く意識し
た場合に使う、である。

例えば「家を出る」はその人が自立することなども想像できるので、
例文として「彼女は結婚するので家を出ました」などがふさわしい。一方
「家から出る」は確かにあまり使わないが、単純に家から離れる動作を
表わすので「車で家から出た」などの場合は「から」のほうが自然である。


 そこで改めて「大学を出る」と「大学から出る」は何か違いを感じます
か、と質問すると、はい、「大学を出る」は「卒業する」という特別な行為
を表すときにも使えますよね、とうれしい答えが返ってきた。だから「大学
から卒業する」はおかしな文になってしまう。「から」単なる物理的な
移動を表すので「涙が目から出る」であり、「涙が目を出る」とは言わ
ない。また「窓から飛び降りる」なども「から」がふさわしい。


 ここで冒頭の「トイレを出る」と「トイレから出る」だが、この場合はどちら
も単なる「出る」という動作を表わしているので、「を」も「から」もほとんど
差はなく、どちらも
OK、が結論である。

何となくホッとしていると、こんな質問がやってきた。「犬が犬小屋を
出る」と「犬が犬小屋から出る」はどう違いますか。それは犬の勝手で
しよう。


戻る  
バンクーバー新報投稿エッセイ 外から見る日本語167
 
エッセイへ戻る
Copyright (C) 2008 Yano Academy. All Rights Reserved.