矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 163


☆ 「明けましておめでとうございました」

明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。
お正月の挨拶として、日本人であれば、よく聞き慣れた、そしてよく書き
慣れた言葉である。


 先日ちょっと戸惑ってしまったメールが日本語上級者から届いた。こん
なメールである。「先生、遅くなってすみません。明けましておめでとう
ございました」。過去形の「おめでとうございました」である。思わず笑って
しまった。


 確かに1月も下旬になろうとしているときのメールである。時制にうるさ
い英語を母語にしている彼女が過去形を使った気持ちはよく分かるの
だが・・・、でもやはり「明けましておめでとうございました」はとても不自然
である。

 この「おめでとうございます」は自分の気持ちを述べる挨拶であり、
基本的には過去形などはあり得ないと言われている。もし過去形の
「おめでとうございました」と言うと、今は「おめでとうと思っていません」と
いう意味にとられてしまうから。


 この「こざいます」は「思う」の謙譲語「存ずる」から変化して出来た
言い方であり、もちろん自分の気持ちを表す言葉なので、確かにこの
「ぞんじます」の過去形「ぞんじました」は不自然である。昔はどんな
場合でも必ず「ぞんじます」を用いていたとのこと。

 でも「ぞんじます」から「ございます」に言い方が変わって、用法的に
広がったようである。例えば「ありがとうございます」であるが、これは
「ありがとうございました」も使われている。昔はダメだったようだが・・・。


 確かにプレゼントをもらったときに「ありがとうございました」は不自然で
あるが、しばらくして「先日は素敵なプレゼントありがとうございました」
などのように、「先日」や「この間」など明らかに過去のイメージを持つ
言葉をつけると問題なさそうである。


 さらに人間関係も絡んでいる。友人などに道を聞いて、すぐお礼を言う
ときに「ありがとうございました」は確かに不自然だが、道に迷って、通り
すがりの人に教えてもらったときなどは、「ありがとうございました」は問題
ない感じがする。それはもう二度と会わない他人だからであろう。人間
関係の有無によっても使い方が異なる。日本語はとても奥の深い言語
である。英語の「サンキュー」などには過去形のイメージなど全く無い
のであろう。


 このように現在では「ありがとう」の場合は「ありがとうございます」も
「ありがとうございました」も両方使うようになった。でも「明けましておめで
とうございました」は使わない。今までこんなこと考えたこともなかったが、
生徒のメールから考えさせられてしまった。


 確かに「おめでとう」は今の気持ちを伝える挨拶なので、基本的に
過去形は不自然である。でも結婚式の後で「本日は誠におめでとう
ございました」は使えるような感じもする。やはり「おめでとうぞんじました」
はヘンだが・・・。
 「言葉は時代とともに変わる」を実感したでございました。



戻る  
バンクーバー新報投稿エッセイ 外から見る日本語163
 
エッセイへ戻る
Copyright (C) 2008 Yano Academy. All Rights Reserved.