矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 162


☆ 「よい年」か「いい年」か・・・?


 日本語学習者にとって「良い」という形容詞はとてもややこしい。
日本語教育では「あつい・さむい」や「おいしい・まずい」などの「い」で
終わる形容詞を「い形容詞」と教えている。そしてこの「い形容詞」の
否定形の作り方は、「い」を「くない」に変えて、「さむい」は「さむくない」
「おいしい」は「おいしくない」と説明している。


 大部分の日本人は「良い」にふり仮名をつけると、「よい」になる。でも
話し言葉として「です」をつけると、「よいです」ではなくて「いいです」の
ほうが自然であり、生徒にもそのように教えている。


 すると「いいです」の否定形は、「さむいです」が「さむくないです」になる
ので、当然学習者は、「いくないです」になると思ってしまう。しかし
「いくないです」はよくないので、「よくないです」と教えなければならない。
確かにややこしい。「なぜ」と質問したくなる気持ちもよく分る。

でもまだまだ大変である。はっきり分らない場合の推量表現の作り方
として、「い形容詞」は「い」を消して「そう」をつけると教える。例えば目
の前のラーメンを見て「おいしい」は「おいしそう」、雪が降っている外を
見て「寒い」は「寒そう」である。


 すると「よい」は当然「よそう」である。でもこれでは別の意味になって
しまうからであろう、学校で習った記憶はないが、我々日本人は「よさ
そう」と「さ」を入れるのである。でもどうして「さ」が入るのか・・・。そして
「いいです」の「いさそう」は使わない。「なぜ、どうして」、生徒は確かに
戸惑ってしまう。

日本語教師としてこの「よい・いい」という形容詞は厄介であり、教え
るのにとても苦労する。そして上級レベルになると、更にこの「よい」と
「いい」の複雑な使い分けが待っている。「あの人はよい人です」も「あの
人はいい人です」も両方使うが、「人」を「やつ」に変えると、「よいやつだ」
よりは「いいやつだ」のほうがピッタリする。でも生徒から「どうしてですか」、
と質問されると困ってしまう。


 確かに「いい気味だ」と言うが、「よい気味だ」とはあまり言わない。
しかし「心地よい」も「心地いい」も両方使えるような感じがする。
「うーん」確かにややこしい。部下などを叱るときなども「よい歳をして」と
は言わず、なぜか「いい歳をして」となる。日本人は確かにうまく使い
分けている。
一般的には「よい」は書き言葉で、「いい」は話し言葉と
言われている。確かに「よい」のほうがフォーマルで、「いい」はくだけた
感じがする。


 師走も下旬になるとこんな言葉がよく使われる。表題の「よい年」と
「いい年」である。お客様などには丁寧に、「よい年になりますように」と
「よい年」を使い、友達などには気軽に、「いい年になるように」と
「いい年」を使うといいですよ、と教えたい。

それでは
  バンクーバー新報 愛読者の皆さま、
  いい年ではなくて、よい年をお迎えください


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