矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 132


☆ 「堪能」の読み方は・・・?

言葉使いになかなか厳しい日本の方からこんな質問を受けた。「堪能」の正式
な読み方である。この漢字は確かにいろいろややこしい。日本語教師泣かせの
漢字である。新米教師の頃、日本語上級者に説明しようとしてとても困ってしまっ
たことを思い出した。

先ず、「彼女は英語が堪能です」のような、技能などが優れている意味の場合は
「かんのう」が本来の読み方である。しかし現在は大部分の人は「たんのう」と発音
している。最初は間違った読み方だったが、多くの人がそのような読み方をして
違和感がなくなってしまい、それが正しい言葉として、認められてしまう。いわゆる
「慣用読み」といわれている。

代表的なものとして「消耗」である。これは本来の読み方は「しょうこう」であった
が、間違って読んだ「しょうもう」が今では正しくなってしまったように・・・。「白夜」も
本来は「はくや」だったようだが「びゃくや」のほうがまかり通っている。

この「堪能」もまだ本来の「かんのう」と読みたい人もいらっしゃるかも・・・、でも
「たんのう」と読む人のほうがはるかに多くなり、「慣用読み」としてすでに認められ
ている。

これだけであれば、さほどややこしくはないのだが、この「堪能」は他にも
使い方がある。「日本料理を堪能した」であり、同じ漢字であるが、この読み方は
「たんのう」だけである。

この語源を調べてみると「足る」の名詞化した「足んぬ」から転じて「たんのう」に
なり、とても満足する意味として使うようになり、この「堪能」を当て字としたとのこと。
「当て字」だと知ってびっくりしてしまったが、これがとてもややこしくしているので
ある。「当て字」とは例えば「おめでとう」を「お目出度」のように本来の漢字の意味
に関係なく「音」をあてはめる表記である。でもなぜ、どうして、この漢字「堪能」を
「たんのうする」の当て字にしたのか、日本語教師としては文句の一つも言いたい
ところである。

この「たんのうする」の当て字を「堪能」にしたことから、「英語が堪能である」な
ども同じ漢字なので本来の「かんのう」から「たんのう」にどんどん変わっていった
のであろう。もうすぐ「かんのう」という読み方はなくなってしまうかも・・・。「消耗」の
「しょうこう」が使われなくなって、「しょうもう」になってしまったように・・・。言葉も
時代とともにどんどん変化していくことを改めて強く感じるところである。

日本語教師としてはこんな教え方をしている。動詞の「堪能する」と、ナ形容詞
(形容動詞)の使い方がありますよ、そしてこんな例文を導入している。
「日本を大いに堪能してください。そして日本語が堪能な生徒になってください」

でも、「先生、どうして意味が全然違うのに漢字が同じなんですか」
こんな質問が来ないことを祈りつつ・・・。



戻る  
バンクーバー新報投稿エッセイ 外から見る日本語132
 
エッセイへ戻る
Copyright (C) 2008 Yano Academy. All Rights Reserved.