矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 131


☆ 「魚」と「肴」の関係は・・・?

新年会の席でこんなことが話題になった。「水を得た魚のように・・・」の「魚」の
読み方である。「うお」か「さかな」かどっちなのか・・・。


  日本語教師にとってこの「魚」に関する質問はいろいろあって厄介だが、とても
興味深い題材でもある。初級では先ずひらがなで「さかな」を教える。そして漢字の
「魚」を導入するときには「うお」と「ギョ」も教えなければならない。

  すると当然「さかな」と「うお」はどう違うのか、これが最初の質問である。初級
レベルの学習者には「うお」は古い言葉だから、今はあまり使いませんね、と
説明しているのだが・・・。

ここで冒頭の「水を得た魚」の読み方だが、日本人に聞いてみるとかなりの方が
「さかな」と答える。これを説明するには、先ず上級者からよく出る質問に答える
必要がある。

飲み会などで「酒のさかなは何がいい・・・」こんな表現をよく使う。これを聞いた
上級者は「酒の魚」とは「どんな魚」なのか・・・、大いに戸惑ってしまう。我々
日本人は「酒の肴」と漢字も違うので全く問題ないのだが・・・。でもこの「肴」の
語源をご存知の方は少ないのでは・・・。

この肴(さかな)の語源は「酒の菜」である。お酒を飲むときの副食、「つまみ」で
あり、はるか昔は野菜が主だったので「菜」が用いられていたとのこと。「酒の菜」の
「さけのな」が「さかな」に変化して、この「肴」の漢字が使われたとされている。
そして江戸時代になって「酒の肴」に「魚(うお)」がとてもおいしく、大いにもてはや
され、「肴(さかな)」と言えば「魚(うお)」といわれるほどになり・・・この「魚(うお)」を
「さかな」と読むようになったとのことである。

こんなことサラリーマン時代には知る由もなく、日本語教師になって分かったの
だが、驚いてしまった。確かに「うお」は母音が重なっているので発音しにくい。
また丁寧の「お」を付けたら「おうお」になり、とても言いにくくなってしまう。漁業が
盛んになり、「うお」という単語が日常頻繁に使われるようになった江戸時代に
「魚(うお)」を「さかな」と読み始めたのも大いにうなずける。最初はちょっとふざ
けて、食べる「魚(うお)」を「さかな」と読んだ江戸時代の若者言葉だったのかも
しれない・・・。

すると「水を得た魚」は・・・現代では「魚」は正式に「うお」と「さかな」と二つの
読み方があるのでどちらでもいいのだが、やはり古くからある言い回しなどの
場合は「うお」のほうが正式とされている。確かに「魚河岸」は「うおがし」のほうが
落ち着くし、「魚座」や「魚心」などは「さかな」では馴染めない。

しかし「魚屋」や「魚釣り」は「さかな」のほうが優勢である。これは地域性や
その人の言いやすさなども絡んでくるのでとても教えにくい。しかし「先生の悪口を
さかなに酒を飲もう」こんな生徒がいないことを望みたい。


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