矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 211


☆ 「酒」の部首は・・・?
 

秋たけなわ、夜長を楽しもうと、いろいろ集う会など盛りだくさんである。
そんな宴会などでのお開きの決まり文句として
「宴たけなわではございますが」こんな表現がよく使われている。しかし
ほとんど話し言葉として使っており、書いたことなどめったにない。
それゆえ、「たけなわ」の漢字などあるの、という人が大半であり、
半分本気で「竹縄」では、という人もいて思わず笑ってしまった。


  この「たけなわ」の漢字、調べてみると「酣」と「闌」と二つある。でも
こんな漢字を知っている人はごく稀であり、日本語教師になる前は全く
知らなかった。教師としていろいろ調べてみると、「酣」のほうが馴染み
やすく、何となくこちらを教えたい。


  この「たけなわ」の漢字は「酒が甘い」と書きますよと説明すべく、
「酒」の漢字も少し調べてみた。この「酒」の部首は水と関係あるので、
当然「さんずい」だと思い込んでいた。でも違うと分かってびっくり。ナント
部首は「酉」とのこと。「とりへん」や「ひよみのとり」などと呼ばれており、
この「酉」は酒を入れる
の象形文字として出来たとのこと。なるほど。

  さらに、「酉」は十二支の「とり」の漢字でもある。十二支は時間や方角
そして季節も表わしており、この「酉」は秋を示し、酒造りは秋から始まる。
このように「酉」は「さけ」と大いに関係があり、「酒」の部首は「酉」でなけ
ればならない。確かに「酉」が付く漢字「晩酌」「酎ハイ」や「酔う」など、
お酒にまつわるものが多い。また「酋長」の「酋」にも「酉」が入っている。
これも「さけ」と関係あり、「酋長」とは酒を司る役職だったのこと。大いに
納得である。


  この「酣(たけなわ)」の意味は大いに盛りあがって最高潮のことで、
「宴もたけなわ」といえば「宴会も真っ盛り」の意味として使っている。
しかし改めて調べてみると、辞書にはもう一つ「少し盛りを過ぎた状態」と
いう意味も出ている。そしてこの漢字の成り立ちから考えると、どうも
そちらのほうが本来の意味だったような感じがする。


  なにしろ「酣」は「酒が甘い」であり、お酒が強い人は盛りを過ぎると
だんだん甘くなっておいしくなくなるようで、ピークを少し過ぎてしまった、
そんな感じがふさわしい気もする。

 
  今では「宴たけなわでございますが、」と「が」を使うのが普通だが、
昔は「宴たけなわでございますので、」のように「ので」使っていたとのこと。
なるほど。


 この「たけなわ」の語源にも諸説あり、定かではないが、
「宴半ば(うたげなかば)」の最初の「う」と最後の「ば」を除いて
「たげなか」となり、それが「たけなわ」になったという説もあり、いとおかし。


 秋の夜長、飲み会などでこの「酒」の部首や「たけなわ」の漢字などに
ついて語るのも乙なものかも。

  友と一献傾けながら、うんちくを傾ける。しばし友も耳を傾けて
くれるかも。また楽しからずや !




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