矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 202


☆ なぜ「土産」が「みやげ」なの?
 

この「外から見る日本語」も200回を数えました。2001年から始めた
ので、間もなく
18年になります。当初はこんなに長く続くとは考えてもみま
せんでした。確かにネタ探しなどいろいろ苦労もありましたが、読者の
皆様の多くの反響がとても励みとなり、続けることが出来ました。
感謝申し上げます。


  先日バンクーバー新報さんの取材を受け、こんなインタビュー記事を
読んだ昔の生徒から「先生、記事読みました。おめでとうございます。
また新しいネタを持って学校に行きます」とのメールが入り、思わず笑って
しまった。


  そして彼が持ってきてくれたネタは「土産」に関するもので、先ず、なぜ
「土産」が「みやげ」なのか、である。実はこの質問は日本語教師になって

30
年になるが、何回となく受けている。
でもエッセイに書いたことはなかった。この語源はいろいろあり、はっきり
分からないのであまり意味がなく、ネタとして取り上げなかった。生徒には、
昔から「みやげ」にこの漢字「土産」を使っており、丁寧の「お」をつけて、
「お土産」と覚えましょう、と説明してきた。

 
  でも確かに彼のような上級者は気になる。ここで少し講義を始めた。
人は旅に出ると、その土地の「みやげ」を買いたくなる、もちろん個人差も
あるが、特に日本人はその気持ちが強い民族であると云われている。

この「みやげ」の語源は諸説あり、大昔のことなので、どれが正しいのか
はっきり分からない。一説には買うために、いろいろ考えたり、見上げたり
するので「みあげ」が「みやげ」になったとの説もあるようで、びっくりして
しまった。


  いずれにせよ、かなり昔から旅先で買う品物を「みやげ」と呼ぶように
なった。土産
(どさん)の意味は文字通り、その土地の産物である。
そして室町時代以降らしいが、「みやげ」に土地の産物である
この「土産」を当て字として使い始めたとのこと。とても歴史を感じる
言葉だよ、と説明した。


  すると彼はすかさず、日本語は奥が深い言語ですが、この「お土産」に
関しては英語のほうが奥が深いと思います。英語では「
souvenir
gift」や「present」に分けていますが、日本語は同じですよね、
ですから「友達にお土産を買います」これを英語に訳すとき、困ります。
うーん、なるほど。でもそんなこと文脈から簡単に判断できるし、
「手土産」という言葉もあるよと説明したが、確かに日本語は同じ
「お土産」であり、分かりにくい。


  さらに「先生、5月に日本に行かれましたね、ぜひ土産話を聞かせて
ください」である。この「土産話」という言葉、とても便利で、恰好よくて
とても素敵です。英語に訳したら「みやげ」の雰囲気など出ません、
やはり日本語は奥が深くて、大好きです。なるほど、確かに日本人は
見送りのとき、「土産話待ってるよ」などとよく使っている。


  そして最後に彼曰く「つまらないネタですが・・・」である。思わず笑って
しまった。以前、日本人はどうして物をあげるとき、
「つまらない物ですが・・・」と、言うのか質問した本人である。
彼の日本語、すごく上達した。今回は見事に一本取られた。
完敗である。でも、うれしい完敗に乾杯した。



ご意見、ご感想は矢野アカデミー
《ホームページ 
www.yano.bc.ca》までお願いします。


戻る  
バンクーバー新報投稿エッセイ 外から見る日本語202
 
Copyright (C) 2008 Yano Academy. All Rights Reserved.