矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 190


☆ 「趣味はアイスホッケーです」は・・・?
 

日本語教育において自己紹介の指導はとても大事である。生徒は
なるべくうまく言いたいと思う。しかし初級レベルでは残念ながら単語力
に限りがあり、なかなか言いたいことが言えない。
特に「私の趣味」などを自分の母語のように格好よく表現したいと思う
のだが、なかなか難しい。

最初は「ABです」、例えば「私の趣味はテニスです」のような簡単
な文型を導入している。しかしこれはすぐに困ってしまう。テニスやゴルフ
ならいいが、アイスホッケーとなるとちょっと分かりづらい。

いま北米ではアイスホッケーの頂点スタンレーカップのプレイオフで
大騒ぎ。残念ながらバンクーバーのカナックスはプレイオフに出られな
かったが、アイスホッケー大好き人間がとても多い。

このアイスホッケーは、特に女性が「私の趣味はアイスホッケーです」と
いうと意味が分かりにくい。たぶん観戦することを言いたいのであろう。
でも「観戦」などという単語はまだ勉強していない。

そこでなるべく早い時期に、動詞を使った
「〜を見ること」や「〜をすること」の言い方を教えている。
「アイスホッケーを見ること」や「アイスホッケーをすること」である。
「私の趣味はアイスホッケーを見ることです」と言えるようになり、
表現力がどんどん広がる。例えば「私の趣味はケーキです」ではなくて
「趣味はケーキを作ることです」といえるようになる。

そして中級レベルになると会話などで、「ケーキを作ることは嫌いです
が、食べることは大好きです」など格好いい表現が出来るようになる。
しかしここで恐い質問が待っている。「食べることが好きです」と
「食べるのが好きです」はどう違うのか、である。
いわゆる「こと」と「の」の違いであり、確かに我々日本人は両方気楽に
使っているが、その違いなどまったく考えたことはない。

でも違いは確かにある。例えば「居酒屋で飲むことが好き」と
「居酒屋で飲むのが好き」は両方使えるが、
「太郎が居酒屋で飲んでいることを見た」とは言わず、
「太郎が居酒屋で飲んでいるのを見た」になってしまう。
我々日本人はちゃんと使い分けている。

さてその違いは? 先ず「の」は話し言葉や感情を表わすときによく
使われる。確かに「居酒屋で飲む(こと/の)が好きです」はどちらも
使えて、違いはあまり感じないが、
「僕、居酒屋で飲むのが大好きだよ」のように話し言葉で
自分の気持ちを表す場合は「こと」より「の」のほうが自然である。

一方、「こと」は書き言葉や客観的な表現に用いる。「夏休みに
日本に行くことを計画しています」は「こと」でなければダメだし、
「芝生に入ることを禁じる」も「こと」でなければ落ち着かない。
しかし「芝生に入るのはダメよ」などの話し言葉では「の」のほうが
ふさわしい。なるほど。

硬い表現か話し言葉か、などでも異なってくる。確かに生徒にとって、
この違いはかなり難しい。この違いを理解してもらう(こと/の)
超大変である。この場合はどっちがいいかしら?


戻る  
バンクーバー新報投稿エッセイ 外から見る日本語190
 
エッセイへ戻る
Copyright (C) 2008 Yano Academy. All Rights Reserved.