矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 121


☆ 「間違いやすい」と「間違えやすい」


 いろいろな単語を覚え始めた日本語学習者に「やすい・にくい」の使い方を教える
ととても喜ぶ。早速「このビールは飲みやすいです」や「このピザは食べにくいです」などの文を作る。そして「最近バンクーバーは住みにくくなりました」などしゃれた
言い方も出来るようになる。


 そして先日この「やすい・にくい」に関して上級レベルの生徒からこんな質問を受けた。「間違いやすい」と「間違えやすい」はどんな違いがありますか・・・である。うーん、ほとんど意識したことはないが確かに両方使っている。これは日本人にとっても
なかなかややこしい。


 これは先ず「間違う」と「間違える」の二つの動詞をきちんと意識しなければならない。そしてこの違いは「火が消える」と「火を消す」と同じような自動詞と他動詞の
違いで、「間違う」は自動詞であり、「間違える」は他動詞で、活用も全く異なる動詞
である。でもこんなこと意識している人はほとんどおらず、こんな説明では全く分か
らないのでは・・・。


 でも日本人はこの「間違う」と「間違える」の二つの動詞を何となく、でもちゃんと
使い分けている。例えば「この住所は間違っている」と「間違う」の「間違って」を
使っている。「間違える」の「間違えて」を用いた「この住所は間違えてある」は意味
が異なり違和感がある。
そして逆に「友達の住所を間違ってしまった」はやはり自動詞「間違う」なので何となく違和感があり、他動詞「間違える」を用いた「友達の住所を間違えてしまった」のほうが自然である。

 我々日本人は「間違う」の「間違った生き方」と「間違える」の「間違えた生き方」を比べれば二つの動詞の違いは容易に分かるのだが、日本語学習者にはとても難しい。「間違う」は自然な正しい状態に反している場合に・・・、そして「間違える」は
意識的な何かがある場合に使いますよと教えているのだが・・・、難しい。


 すると「間違いやすい」は「間違う」であり、「間違えやすい」は「間違える」であるから、
当然それなりに違いはあるのだが、でもこの場合はほとんど違いは感じられず、意識する
必要はないのであろう。


 そしてこんな表現も気になる。「一歩間違えば大惨事」と「一歩間違えれば大惨事」の違いである。「間違う」が「間違えば」であり、「間違える」が「間違えれば」であるからこれも違いはありそうだし、また「間違う」の「犯人と間違われた」と「間違える」の「犯人と間違えられた」の違いも何となくあるような気がするが・・・、とらえ方の違いである。


 このように多くの場合両方とも使われることが非常に多いので「あまり気にすることは
無いですよ」が結論だが、正に日本語教師泣かせの説明しにくい質問である。生徒の
「先生の説明はとても分かりにくくて、(間違っちゃいそう・間違えちゃいそう)」の声が聞こえ
てきそうで恐ろしい。



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