矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 110


☆ 「ごちそうさま」の漢字は・・・?

日本語学習者の大半は漢字が苦手であるが、中には漢字にとても興味を持っている
生徒もいる。カナダ人の上級者である彼女もその一人なのだが、先日質問という質問
ではないが、彼女からこんな「なげき」を聞かされた。挨拶の「いただきます」の漢字は
よく分かりますが、「ごちそうさま」の漢字は難しくてよく意味が分かりません、である。

確かに「いただきます」は「頂く」、すなわち「もらう」であり、目の前の食事をもらうのだ
からとても分かりやすい。でも「ごちそうさま」の漢字は「御馳走様」でありとてもややこしい。日本人でもこんな漢字などあまり意識したことはないのでは・・・。私自身もサラリーマン
時代にはほとんど考えたことはなく、日本語教師になって初めて辞書のお世話になった。

「馳走」であるが「走」は当然「走る」であるが「馳」も「馳せ参じる」のように「走る」という
意味がある。でもどうして食事が終わったときの挨拶である「ご馳走さま」に二つも「走る」という漢字が重なるのか・・・。確かに日本人にとっても分かりにくい。

語源を調べてみると、昔はあっちこっち走り回っていろいろ食材などを用意したので、
走り回ってもてなしてくれた行為に対する感謝の気持ちを表すとある。なるほど・・・、
走り回って作ったことを強調するために「馳走」という二つの漢字を用いたのであろう。
しかしこれは漢字大好きな生徒にもややこしい。挨拶用語などは漢字など意識せず
ひらがなで「ごちそうさま」と書きましょう、と話したのである。

確かに日本語教師として説明しにくい漢字はいろいろある。かなり昔であるがこんな
漢字を質問されて困ったことを思い出した。「流石」である。当て字といわれているが
「さすが」と読む。この言葉は日常よく使うので中級レベルの生徒には教えなければなら
ない。「さすがですね、オリンピック選手の演技はすばらしい」こんな例文である。

しかしこの「さすが」が何で「流石」という漢字を使うのであろうか。これもとてもややこしい。これは中国の故事から来ているといわれている。自然のままの山奥で生活する例えとして
「石に枕して、流れに口すすぐ」という熟語があるのだが、ある男がこれを間違えて
「石に口すすぎ、流れに枕す」といってしまった。間違いを指摘されたところ彼は「石に
口すすぐは歯を磨くためで、流れに枕するのは耳を洗うためだ」と言い張った。なかなか
うまいこじつけである。さすがである。この故事から「さすが」を「流れに」と「石に」の漢字を
使って「流石」を使うようになったと言われている。なかなか面白い「いわれ」だが生徒に
説明するのは大変であり、これもひらがな書きのほうがはるかによさそうである。

先ほどの「ごちそうさま」だが、上級者には食べ物だけではなくて、男女の仲の良さ
などを見せつけられたときなども、「ごちそうさま」を使いますよとちょこっと教えたいところで
ある。すると「流石、矢野先生」とほめてもらえるかも・・・。




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