矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 79


☆ 「四つ仮名」表記は難しい・・・。

ある集まりに日本語中級レベルの生徒と一緒に出かけた。ちょっと遅くなったので
小走りしたのだが・・・そのとき彼は歩道の石につまずいてしまった。そして彼は
「私の足が石にぶつかりました」と思わず口にしたのである。いかにも英語的な表現で
ある。そこで早速日本語レッスンが始まった。「つまずく」という動詞を教えて、
「〜につまずいた」という構文を導入したのである。そして後日彼から質問が来た。
書くときは「つまずく」ですか、それとも「つまづく」ですか・・・うーん、日本語教師としては
とっても恐い質問である。いわゆる「四つ仮名」の問題である。

だいぶ前にも書いたことがあるのだが、この四つ仮名いわゆる「じ(zi)」と「ぢ(di)」、
「ず(zu)」と「づ(du)」の使い分けは確かに難しい。我々日本人にもややこしいのだから
日本語学習者には大変である。昔は発音も違っていたようだが、現在は全く同じである。ではどうして同じ発音なのに文字が二つあるのか・・・日本人にしてみればそんなこと
気にしたことなどないが・・・でも確かにもし英語のアルファベットの「a」や「b」に二つの
文字があったとしたら、「どうして二つもあるの、一つにしてよ・・・」といいたくなるであろう。
日本語学習者の気持ちもよく分かる。

そんな日本語学習者に配慮した訳でもあるまいが、現代仮名遣いではある条件を
除いて「ぢ」と「づ」は使ってはいけないことにしている。その条件は先ず「鼻血」である。
鼻と血が一緒になって出来た言葉であり、二つの言葉が連なると後の言葉が濁る
いわゆる連濁現象の場合は「ぢ」を使う。「竹筒」なども竹と筒が一緒になったのだから
「たけづつ」である。また「縮む」や「続く」など連呼と呼ばれる場合も「ちぢむ」や「つづく」
のように「ぢ」や「づ」を使ってOKである。でもそれ以外は基本的にはすべて
「じ」と「ず」を使うように決めたのである。

すると「つまずく」か「つまづく」か・・・。辞書には「つまずく」が載っており「つまづく」は
ない。しかしこの「つまずく」の語源は「爪突く」といわれており、連濁なので「つまづく」の
ほうがふさわしいのでは・・・。

ここで火の玉教授で有名な大槻教授の登場である。以前の「人妻」「新妻」は
「妻」の連濁だから「づま」であるが「稲妻」は連濁ではないので「いなずま」であるとの
エッセイに対して、こんな指摘を受けた。「稲妻」は確かに辞書で調べると「いなずま」が
正解だが、科学的立場からすると「いなづま」のほうがいいのでは・・・である。稲妻が
光ると空気中のチッソが地面に落ちる。そして土地が肥えて豊かになる。これは科学の
世界では常識との事・・・? 確かに化学肥料などがなかった時代は雷が多かった翌年は
大豊作・・・農家の人は稲妻大歓迎だったらしい。そこで大槻教授いわく、人妻や
新妻と同じように稲妻も「稲の妻」という考えで連濁の「いなづま」のほうがふさわしい
のでは・・・すごく科学的な観点に基づいた説得力のある説明である。

さて、この「基づく」を「motozuku」と入力しても出て来ない。「motoduku」である。
パソコン全盛期の現在、キーボードに入力する場合、特にこの「四つ仮名」は大いに
注意が必要である。



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