矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 215


☆ 「嫁が君」とは何者・・・?
 

つい先日2020年の幕が開けたと思いきや、もう2月も下旬に、
いと早し。今年の十二支は「ねずみ」なので特に早く感じるのかも。
子年にちなんで、この「ねずみ」について少し調べてみた。


  まず、この漢字「鼠」だが、今まで手で書いたことなどほとんどなく、
実際に書いてみると、画数も多くなかなかややこしい。そしてこの漢字、
ナント象形文字、すなわち山や川と同じ絵文字とのこと。
うーん、なるほど、確かに「ねずみ」に見えなくもないが、でももう少し簡単
な漢字だったら、もっと鼠ちゃんに愛着が持てたかも。


  また、「ねずみ」の語源にはいろいろあるようで、一説には、人間が寝て
いる間に食べ物を盗むので、「寝盗み(ねぬすみ)」から「ねずみ」になった。
えー、なるほど。実は英語の「mouse」にも食べ物をあさり回るという
動詞も辞書に載っている。「ねずみ」と「mouse」の語源、日本語も
英語も同じような考え方をしていたようで、いとおかし。


  さらに驚いたのは、この「ねずみ」を正月三が日だけ、かなり昔から
「嫁が君」と呼んでいたとのこと。嫌われ者の「ねずみ」だが、お正月の
三が日ぐらいは一緒に楽しもうと、親しい呼び方を考えた。
ねずみは「夜目がきく」と云われており、この「夜目」と「嫁」をかけて、
「夜目がきく」を「嫁が君」としゃれて呼ぶ。
うーん、なるほど。とても粋な古きしゃれの文化、でも残念ながら、
日本語教師として今まで耳にしたことがなく、恥ずかしき限りなり。


  そして、もっと驚いたことが、この「嫁が君」は俳句の新年の季語にも
なっているとのこと。江戸の元禄年間、俳句の芸術性を高めた
松尾芭蕉も「嫁が君」を用いて句を作っている。


    餅花や かざしにさせる 嫁が君


また、明治の正岡子規もこの「嫁が君」を題材にして、
数句詠んでいる。例として


    行燈の 油なめけり 嫁が君
 
    猫もかわず 一人暮らしよ 嫁が君


  うーん、誠に驚いてしまった。確かにこれらの句、
「嫁が君」が「ねずみ」だと知らなければ、意味もよく分からず、季語も無い
お粗末な俳句と思ってしまう。
俳句に詳しい方はお分かりなのであろうが、ほとんどの方はご存知ないと
思う。それはこの「嫁が君」は昭和に入ってからほとんど使われず、
忘れられてしまった。でも関西地方ではこの「嫁が君」、方言として残って
いるところもあるようで、さらに昨今俳句ブームの再来で広まってきている
とのこと。


  いい機会なので、小生も少し俳句を学ぼうかと。ここで一句

     嫁が君 ワインを輪飲 円居せん

仲間とワインを輪になって飲む、「嫁が君」も一緒に円くなって
円居(まどい)する。楽しからずや。




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