矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 206


☆ 「利益」は厳かなもの ?
 

前回のエッセイに「招き猫」のことを書いた。それを読んだ日本語
上級者からこんな質問を受けた。なぜ「利益」に「ご」を付けるんで
すか? 最初は質問の意味がよく分からなかったが、エッセイに
「招き猫のご利益」とあり、今まで「会社のご利益」など聞いたことが
なく、なぜ「ご」が必要ですか、である。
 なるほど、これは「ご利益」と「利益」の読み方や意味の違いを
意識しなければならない。


  一般的に「利益」は「りえき」と読むが、「ご利益」と書いてあると、
日本人は何となく「ごりやく」と読みたくなる。うーん。同じ漢字の
「利益」も「りえき」と「りやく」と、読み方を変えると、確かに意味も
かなり異なる。日本語教師として今まで考えたことも、教えたことも
なかったが、これは上級者でも難しい。そこで「利益」について、
早速勉強会を始めた。


 まず、「益」は音読み(中国式)として、「ヤク」と「エキ」2つある。
この漢字「利益」が中国から伝わってきたのは鎌倉時代と云われて
おり、当時は「リヤク」と読んで、神仏の「恵み」というという意味で
使われていたようである。


  その後、もう一つの読み方「エキ」も伝わり、「利益」を「りえき」と
いう読み方も使われ始めた。意味的にも神仏の「恵み」から広がり、
「もうけ」のような意味として用いられるようになったようで、ものの本
には、江戸時代の前からすでに「りやく」と「りえき」を使い分けて
いた、とのこと。なるほど。


  現代になって、経済的な概念が広まると、「利益」の読み方は
「もうけ」を意味する「りえき」のほうが主流になった。
そしてもう一つの神様仏様の「恵み」には丁寧の「ご」を付け、
「御利益」や「ご利益」と書いて、「ごりやく」と読むことにしたようで
ある。でも日本語学習者にはややこしい。なるべくひらがな書きを
教えたい。


  こんな話をしていたら、その上級者から英語にも同じような単語
があります、と興味深い話が出た。「interest」である。す
ぐ思い浮かぶ意味は「興味」だが、確かに「利益」や「利子」という
意味もある。彼も「利益」からこの「interest」を思いついたとのこと。
うーん、確かに同じ単語でも「興味」と「利子」ではかなり違いが
ある。


 なるほど、これも「興味」がどんどん膨らんで、経済的な「もうけ」と
結びつき、「利益」や「利子」という意味が出来たのかも、日本語の
「利益」と似ているね、と思わず笑いながら頷いてしまった。
 
  いろいろ勉強した満足感を覚え、これは間違いなく、招き猫が
招いてくれた「ご利益」だね、と乾杯した。「利益」の語源や経緯に
触れ、とても神々しい、厳かな雰囲気に浸り、早速宝くじを買って、
招き猫にお願いした次第である。




ご意見、ご感想は矢野アカデミー
《ホームページ 
www.yano.bc.ca》までお願いします。


戻る  
バンクーバー新報投稿エッセイ 外から見る日本語206
 
エッセイへ戻る
Copyright (C) 2008 Yano Academy. All Rights Reserved.