矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 183


☆ 「良い」はよそう・・・?
 

まずはこんな夫婦の会話を、「このマフラーいい色だね、買おうかな」
「派手すぎよ、いい年して、やめなさいよ」。日本人にしてみれば、
ごく当たり前の会話である。でも日本語学習者にしてみれば、確かに
分かりにくい。この「いい」にはいろいろな意味があり、日本語教師泣か
せの形容詞である。

まず我々日本人は「良い」と漢字で書いてあれば「よい」と読みたく
なる。しかし「です」をつけて「良いです」となると「よいです」よりは、
「いいです」のほうが自然である。「よい」は主に書き言葉に使い、
「いい」は話し言葉として会話などによく使いますよ、と教えている。

ここでちょっと困ることがある。普通「重い」や「軽い」などの形容詞の
否定形の作り方は最後の「い」を「くない」に変えると教える。「重い」は
「重くない」、「軽い」は「軽くない」となる。すると「いい」は当然「いくない」
になってしまう。

うーん、「いくない」はあまりよくないですね。でも、なぜよくないのか、
学習者の戸惑いもよく分かる。「よい」と「いい」の使い分け。そして
否定形は「いくない」はダメで、「よくない」だけ。こんなこと日本人にして
みれば当たり前のことだが、確かにややこしい。

そしてまだまだ面倒なことが待っている。よく「おいしい」などに「そう」を
つけて「このラーメンはおいしそう」など、推量表現としてよく使う。これを
教えるときは「おいしい」の「い」を取って「そう」を付けると説明する。
「重い」は「重そう」、「軽い」は「軽そう」である。すると「この本は良い」の
「よい」は「い」を取って「そう」を付けるのだから「よそう」となり、「この本は
よそう」になってしまう。

うーん、日本人は習った記憶などないが、なぜかちゃんと「さ」を入れて
「よさそう」を使う。でもどうして「さ」が入るのか・・・。実にややこしい。
生徒に「もう嫌です。日本語の勉強よそう」などと言われないように
しなければならない。

このように「よい」や「ない」などの短い2音節の形容詞は「そう」を
付けるときは「よさそう」や「なさそう」のように「さ」が入りますよ、と説明
している。
でも、ある上級者から「濃い」「薄い」の「こい」も「さ」が入り
ますか、と質問がきた。なかなか鋭い質問である。

 確かに「濃さそう」もよさそうだが、「濃そう」のほうが多く使われている
感じがする。「よそう」や「なそう」は絶対ダメなのに・・・、困ってしまった。
いろいろ例外もあり、言いやすさも大事なのであまり気にしないでね、が
精一杯の答えであった。

そしてこの「よい・いい」は漢字が絡んでくると、またややこしい。
例えば「彼はよい(いい)人だ」を漢字で書くと、「良い」か「善い」か
「好い」かどっち。漢字にはそれなりの意味があると思うが、ひらがな
書きの「よい」や「いい」が一番よさそうである。

また、話し言葉の「彼はいいやつだ」や「いい年して」などは、やはり
「よい」よりは「いい」のほうがぴったりする。本当にこの「いい」を
教えるのは、いい年した日本語教師としては、かなり大変である。



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