矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 181


☆ 「結構」は結構おもしろい
 

先日、日本の年配の方から「結構」の漢字の語源を尋ねられた。
確かにそんなこと知っている日本人は少ないと思う。私もサラリーマン
時代には「結構」の語源など考えたこともなかったが、日本語教師に
なって生徒から質問されたことを思い出した。

この「結構」は日ごろ結構使う言葉だが、なぜこんな漢字を使うのか、
と質問されて答えられず、困ってしまった。調べてみると、この「結構」と
いう言葉は家などを建てるときの表現とのこと。驚きである。

確かに「結」は紐で結ぶことであり、「構」は木などを構えること。
しっかりと紐で結んで、木をうまく構えて念入りに作り上げる、が語源で
ある。なるほど。

そして、文章などの構成にも使われるようになり、さらに拡大されて、
「結構」は念入りに作り上げた結果のすばらしさを評価する「ほめ言葉」
として使われるようになったとのこと。さらになるほどである。

日本語教育において、この「結構」を教えるのは結構難しい。我々
日本人はこの「結構」をいろいろな場面でうまく使い分けている。例えば
くだもの屋での会話として、
「これ結構なメロンね」「奥さん、いかがですか」
「でも今日はお金が無いから結構よ」「お金なんかいつでも結構ですよ」
日本人にとってこんな会話は容易に理解できるが、日本語学習者に
してみれば「結構」ってどんな意味なのか、目を白黒させてしまう。

この「結構」は本来、ほめ言葉であるから「すばらしい」や「満足」など
の丁寧な表現として用いられてきた。「お味のほういかがですか」
「大変結構です」や「結構なお住まいですね」などであるが、やはり
丁寧な表現なので、何となくかしこまった雰囲気を出したい場合に使う。

そして本来の「結構です」から少し意味が広がった使い方として上記
の「お金はいつでも結構ですよ」である。これはいわゆる「大丈夫・OK」
の丁寧な言い方であり、これも大変親しい間柄では使わないが、
相手に好意などを示したい場合にはよく用いられる。例えばお客さん
などに「少しぐらい遅れても結構ですよ」など。


 さらにこの「結構です」は断る場合にも使われるのでややこしいが、
これも「満足ですよ」や「十分ですよ」のような意味から、「辞退する」や
「要らない」などのような場合にも使われるようになったとのこと。これに
関しては日本人も勘違いする場面もあり、日本語のあいまいな表現の
代表例になっている。確かにやっかいであるが、面白さもある。

例えば「ワイン、いかがですか」に対して「結構です」だけだと確かに
分りにくい。「いえ、結構です」のように「いえ」や「もう」をつけると断る表現
になり、「結構ですね」と「ね」などが付くと、お願いの表現になる。
もちろん言い方や顔の表情などでも判断できるが、生徒にとっては
ややこしい。

 このようにこの「結構」は昔から、どんどんいろいろな意味を持つように
なり、日本語教師としては大変である。「結構」を教えるのは、もう結構
です。



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