矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 179


☆ 「数え方」は大変だが・・・。
 

日本語教育において「数え方」を教えるのは大変である。何しろ
複雑な数え方がたくさんあるので我々日本人でも戸惑ってしまうので
あるから、日本語学習者にはとてもややこしい。

しかしこんなことで日本語が嫌いになってしまったら教師としては困る
ので、最初は簡単に教えたい。とりあえず「人」と「犬や猫」そして「物」の
三つの数え方を先ず覚えてもらう。すなわち「人」は「ひとり、ふたり」、
「犬や猫」は「いっぴき、にひき」、そして「物」は、最初は全て「ひとつ、
ふたつ」と教えている。そして徐々に物の形状などによって「個」、「本」、
「枚」や「杯」など異なる数え方をゆっくり導入していくようにしている。

確かに日本語の「数え方」は複雑だが、先日ワイン飲み会の席で
日本語上級者にワイングラスの数え方の話をした。もちろん「一個、
二個」でも問題ないが、持つところが細長いグラスは脚のように見える
ので「一脚、二脚」と数え、お客さまに出すグラスは「おもてなし精神」を
発揮して「お客」の「客」を使って「一客、二客」と数えるんですよ、と
説明したら、さすが上級者、みんな驚いてしまった。

さらに、コーヒーカップなども自分や家族で飲む場合は「一個、二個」
だが、ソーサー(受け皿)をつけてお客さんに出すコーヒーカップは
「一客、二客」と数えるんですよ、と説明すると、「なるほど、日本語って
すごいですね」である。

確かに日本語の数え方はいろいろ複雑であるが、このように喜んで
くれる生徒がいることはとてもうれしい。そしてこんな話もつけ加えた。
年賀状などの「はがき」の数え方である。確かに書く前は「一枚、二枚」
と数えるが、友達から届いた年賀状などは、日本人は「一通、二通」と
数えたくなる。それはお互いの心が通じたから「通」を使うんですよ、と
説明すると、「なるほど、日本語って本当に素晴らしいですね、本当に
奥が深いですね。もっともっと勉強したくなりました」と言ってくれて、教師
としてとてもうれしい気持ちになった。

さらに、人の数え方で、「一人」と「一名」の違いも話題になった。間
違いなく「一人」よりは「一名」のほうが丁寧に感じる。それは「名」は
基本的に、名前が分かっているような場合に用いるので、丁寧な表現
となる。なので、店などではお客に対して、「何人さまですか」ではなくて
「何名さまですか」と「名」を使うのが「おもてなし」である。英語ではこん
なこと気にせず、「How many people?」であろう。

そして客のほうは「四人です」と「人」を使うのが基本マナーであり、
もし「四名です」というと偉そうな感じになる。確かに「四名」と「四人」
では丁寧度が違う。「四名組強盗」などとは絶対に言わない。誠に
日本語はきめ細かな言語である。

こんな話をしていたら、ワインがどんどんはかどってしまった。そしてある
生徒が上品なワイングラスを二脚買って彼女と飲みたいです、と笑い
ながら締めの乾杯。まさに教師冥利に尽きる思いであった。


戻る  
バンクーバー新報投稿エッセイ 外から見る日本語179
 
エッセイへ戻る
Copyright (C) 2008 Yano Academy. All Rights Reserved.