矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 143


☆ 「肉汁」の読み方は・・・?

日本語教育において漢字の導入はなかなか大変である。漢字など見たくもない
という生徒も多いのだが、日本語における漢字の役割は大きく、日本語上級者に
なるには漢字の勉強は不可欠である。

先ず生徒は漢字にはなぜいくつもの読み方があるのか疑問に思う。確かに
生徒の驚きはよく分かる。それには漢字が日本に入ってきた経緯などもちょっと
説明して、中国式の読み方「音読み」と日本式の読み方「訓読み」の二つあること
を教えなければならない。例えば「犬」は、音読みが「ケン」で、訓読みが「いぬ」で
ある。

確かにややこしい。しかし漢字教育において上級者になれば少なからず「音読み」と
「訓読み」の意識も必要である。かなり昔の生徒で今は子供も出来て専業主婦をして
いる上級者から先日、表題の質問を受けた。「肉汁」の読み方である。

とっさに「にくじる」と答えた。すると彼女は、「先生、それは重箱読みですよね」である。
何か試された感じがしてびっくりしてしまった。早速調べてみると確かに辞書には「にくじる」
など出ておらず「にくじゅう」が正しい読み方である。昔、彼女に「重箱読み」とは台所
(ダイどころ)のように「音+訓」読みであり、「湯桶読み」とは頭金(あたまキン)のように
「訓+音」読みですよと教えた先生としては誠に恥ずかしい限りであった。

でももっと恥ずかしいことはこの時まで、肉の「にく」はてっきり日本式の「訓読み」だと
思い込んでいたことである。調べてみると間違いなく「にく」は音読みであり、訓読みは
無いのである。驚いてしまったが、誠に日本語教師失格である。

確かに「果汁」は「かじゅう」なので「にくじゅう」が正式な読み方であり、「ニクじる」と
読めば「音+訓」読みになってまさしく重箱読みである。先生として彼女に合わせる
顔がなく、穴があったら入りたい気持ちであった。

とても気になり、こちらの日本人に聞いてみた。もちろん「にくじゅう」と読んだ人も
いたが、「にくじる」と答えた人もかなりいたのでホットした。彼女もテレビなどで両方聞いて
気になったようである。

本来は音読みか訓読みに統一するのが基本であるが、分かりにくいものもあり、
使う者の知恵として分かり易い読み方を考えたのであろう。「茶柱」も「ちゃちゅう」では
分からず、重箱読みの「ちゃばしら」にしたのである。こんなことあまり気にせず、分かり
易い読み方が一番大事ですよ、が言い訳である。

そして猫が大好きな彼女に「愛犬」と「愛猫」の話をした。「愛犬」は読めるが、
「愛猫」は難しい。「猫」の音読みは「びょう」であり、「あいびょう」である。でも
ほとんど聞いたこともないし、使ったこともない。意味も分かりづらい。
「あいねこ」なら分かるけど・・・。すると彼女いわく、「あいニャン」のほうがいいで
すよね。思わず笑ってしまったが、これいつか正式に辞書に載るかも・・・。




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