矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 140


☆ 「最中」の読み方は・・・?

「最中を食べている最中に電話がかかってきました」。これは教師養成講座の
卒業生で、最近バンクーバーで日本語を教え始めた新米教師がちょっとふざけて
作った文章である。日本から観光にきた友人のお土産をおすそ分けとして持って
きてくれた。私の大好きな「もなか」である。そして早速その最中を教室で食べて
いるときのことであった。

確かにこの「最中」という漢字はなかなかおもしろい、しかしなかなかややこしい。彼女も気になってこの「最中」をいろいろ調べたようである。早速「最中談義」が
始まった。
なぜ「最中(さいちゅう)」とお菓子の「最中(もなか)」が同じ漢字なのか、
不思議に思う方も多いのでは・・・。そしてさらに「さなか」とも読むがその違いは・・・。確かにややこしい。

これは満月のことを昔は「最中(もなか)の月」と言っており、中秋の名月の時に
食べるお菓子が満月のように丸いので「最中(もなか)」と名づけられたとのこと。

調べてみると、平安時代には「最中」の読み方は全て「もなか」であり、秋の真ん
中のころを「秋の最中(もなか)と言っていたようである。
清少納言も「枕草子を書い
ている最中(もなか)に、いと眠くなりぬる」などと言っていたのであろうか・・・。
そして「もなか」が変化して「さなか」という読み方も出来たとのこと。

そして「さいちゅう」という読み方は明治時代の後半に漢文調の読み方がはやり
だして出来たようである。ひょっとして当時の若者が作った言葉だったのかもしれ
ない・・・。それまでは「最中」は全て「もなか」だったのである。日本語教師としても
大変興味深い。語源を考えればなるほどである。

しかし現代では「さいちゅう」のほうが一般的で広く定着しており、日本語教育でも
「もなか」などは教えていない。「もなか」はお菓子の最中だけで・・・、表記は漢字
など使わず「もなか」のほうがわかりやすい。

上記の「最中を食べている最中に電話がかかってきた」は一瞬ちょっと戸惑う
が、読み方も理解できる。しかし「食べている最中に驚いた」 これはどうであろう
か・・・。「もなか」か「さいちゅう」か確かに分かりにくい。

 そして上級者から予想される質問の対応策まで話が進んだ。「さいちゅう」と
「さなか」はどう違いますか・・・である。確かに「さなか」のほうが古い読み方なので、かしこまった感じがするし、「冬のさいちゅう」よりは、「冬のさなか」のほうがしっくり
くる。確かに日本人は何となく使い分けている。でも教えるとなると、難しい。

お菓子の「最中」のおかげでこんな話が出来た。「先生、日本語を教えることに
どんどん興味が出てきました」 彼女のこの一言が嬉しい。



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