矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 139


☆ 「茶化す」はなぜ「お茶」なの・・・?

「太平の眠りを覚ます上喜撰、たった四杯で夜も眠れず」 これは江戸末期、
黒船来航の驚きを皮肉った狂歌だが、喜撰茶の上等なものを上喜撰茶とし、
この「上喜撰」を「蒸気船」と掛けたなかなか粋な歌であり、ご存知の方も多いの
では・・・。そしてこの喜撰茶が宇治茶であり、名前の由来が喜撰法師から来て
いるとの知識を最近得て、いろいろ興味が湧いてきた。

タイミングよく先日この宇治茶の歴史や製造方法などについての講演会が
あり、勇んで出かけた。お茶の知識など全くない素人だが、煎茶や玉露の栽培
方法の違いや、きめ細かな製法工程からお茶のおいしい入れ方までいろいろ
学び、お茶の奥の深さを強く感じて、「一期一会」の茶道の文化を垣間見た
思いであった。

そしてこのように心を込めて作られているお茶の話を聞いているうちに、お茶に
関する言葉がいろいろ浮かんできた。しかし「茶化す」、「茶茶を入れる」や
「無茶苦茶」などほとんど悪い意味のものばかりで・・・、早速調べてみた。もちろん
良い意味の言葉もあるが、大部分は悪い意味に使う慣用句などが多い。でも
何故なのであろう、大事なお茶なのに・・・。

先ず「茶化す」だが、はぐらかすなどの意味に使う。でもなぜ「茶」の漢字を
使うのか、飲むお茶と関係あるのか、大いに気になってしまった。辞書には
いろいろ説が出ている。

例えば、ラッパの「チャルメラ」が語源で、その奇妙な音が無責任な音に聞こえ、
「チャルメラ」の「チャ」を使い、「茶」を当て字に使って「茶化す」になった。または
「茶する」、つまり「休憩する」から転じて「冗談を言う、ごまかす」となり、
「茶と化す」から「茶化す」と呼ぶようになったという説などがあるが、いずれも
定かではないようである。

 また水をさすなどの意味の「茶茶を入れる」なども語源ははっきり分からない。
「邪邪」が語源で、これが転じて「茶茶」になったなどいろいろな説もあるが、
いずれにせよ、全て当て字だと言われている。

確かに「お茶を濁す」などは本来のお茶と大いに関係がある。ごまかしたり、
取りつくろう意味だが、これは茶道の作法をよく知らない者がお茶を濁らせて、
何となく抹茶に見えるようにごまかしたことからできた慣用句である。

しかし「無茶苦茶」や「お茶目」なども堂々と「茶」の漢字が入っている。今まで
あまり考えたことはなかったが・・・。これは「ちゃ」という音色におどけた響きを
感じ、日本人の身近にある大事な文化の「茶」の漢字を当て字として敢えて
使ったとされ、なるほど多いはずである。

お茶を飲みながらこのようなことを書いていると、「日常茶飯事」などという
言葉もそう軽々しく使えないような気持ちになってしまった。



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