矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 137


☆ 「コツをつかむ」の「コツ」は外来語 !

日本語に関してちょっとうるさい上級者から質問があるというので少し緊張した。
「先生、日常会話上達のコツは何ですか・・・」である。ナンダそんなことかとホット
しながら「君はもう上級者なんだから、そんなコツなど必要ないよ」と言ったところ、
そんな簡単ではなく、彼の質問は続いた。「これらの『コツ』はよくカタカナで書いて
ありますが、外来語ですか・・・、意味は分かりますが、何の省略ですか」である。

なるほど・・・、一瞬思いも寄らない質問に驚いてしまったが、よく考えてみるとな
かなか面白い質問である。カタカナで書いてある「コツ」を見て、彼はそれを外来語
と感じてしまったのである。例えば「アニメ」が「アニメーション」の略であり、「コネ」が
「コネクション」の略語であるから、「コツ」はどんな外来語を省略したのか・・・、
確かに彼の質問も大いにうなづける。

意味はもちろん分かっているが、日本人はこんなこと意識したことはほとんど
ないし、その語源などは全く考えたこともないのでは・・・。でも「日本料理のコツ」や
「ゴルフ上達のコツ」などと会話にもよく使うし、表記もよく目にする。
どのように書く
か、そして語源は何か・・・と、改めていろいろな日本の人に聞いてみたのだが、
多くの人がカタカナで書くと答えた。そして、うーん、そう言われてみると、「コツ」の
語源は何だろうという人がとても多かった。

答は「骨」である。骨は身体の中心にあり、そこから物事をなす「要領」を意味す
るようになり、音読みの「コツ」を用いたとのこと。表記は漢字の「骨」を書いても
構わないのだが、「ほね」と読まれては困るので、漢字の「骨」は使わないのであ
ろう。もちろん、ひらがなで「こつ」と書いても全く問題ない。でもなぜカタカナの
「コツ」のほうが多いのか・・・、これは個人の感覚の違いから生ずるのであろう。


 日本語教師としてこの「骨」という漢字を教えるのは確かに骨が折れる。訓読みの
「ほね」と音読みの「コツ」をしっかり教えなければならない。「骨折」は「こっせつ」で、「骨折り」は「ほねおり」である。そして「骨のある人」の読み方は・・・、日本人は
間違えるはずはないが、学習者は「ほね」か「コツ」かどちらか分からず、確かに
慣れるまでは大変である。冗談まじりに「骨のない人間なんか、いませんよね」と
絡んでくるうるさい上級者もいる。

「遺骨」はもちろん「いこつ」である。そしてお葬式での「骨を拾う」は「ほねを拾う」
であるが「骨拾い」は・・・。さらに「お」を付けて「お骨を拾う」となると、「おこつ」と
読みたくなってしまう。確かにややこしい。


 「日本語上達にコツなどありませんよ」と老骨に鞭打って、びしっと教えたいところ
だが、日本語を上手に教えるコツを早くつかみたい。




戻る  
バンクーバー新報投稿エッセイ 外から見る日本語137
 
エッセイへ戻る
Copyright (C) 2008 Yano Academy. All Rights Reserved.