矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 115


☆ 「お金をかけた」はどんな意味・・・?


 「先生、”かけっこ”って何ですか・・・」こんな質問をスポーツ好きな生徒から
受けた。「かけっこ」など確かに最近はあまり聞かない言葉になってしまったが、
テレビドラマの中に出てきたようである。それは「競争すること」で、すでに習って
いる「はしる(走る)」と同じですよと説明したのだが、そこで教師としては「かける
(駆ける)」という動詞を教えなければならない。

すると当然「はしる」と「かける」の違いが気になる。意味的にはほとんど同じ
だが、でも「先生に早く会いたくてかけてきた」のほうが気持ちが入っている感じが
して、先生としてはうれしいかも・・・。そんなことどうでもいいのだが、ひとつ大事
なことは「かける」は人間や動物だけにしか使わないが、「走る」は「稲妻が走る」
などにも使える点であろう。

 この「かける」という動詞はいろいろな使い方があり、日本語教師泣かせの
動詞である。初級では先ず「電話をかける」や「カギをかける」などを導入する。
ここで生徒はちょっと戸惑ってしまう。「書く」の可能形「かける」もすでに学んで
いるので・・・。

そして次に「メガネをかける」や「カーテンをかける」、算数の「2かける3」なども
教えなければならない。そして「塩をかける」や「しょう油をかける」も大事であり、
さらに「ふとんをかける」や「エンジンをかける」そして「迷惑をかける」なども教え
たい。

ここでさらにちょっと困った質問が・・・、「いすに座る」と「いすにかける」の違い
である。日本人はこんなこと気にしたことないが学習者はその違いが気になる。
確かに違いはある。「座布団に座る」は使うが「座布団にかける」とは言わない。
畳での生活だった昔は全て「座る」だったのだろうが、椅子などを使うようになって
「腰掛ける」という動詞があるように、「かける」という動詞を使うようになったので
あろう。

さらに上級になると「お金をかける(賭ける)」や「橋をかける(架ける)」「空を
かける(翔る)」そして「裁判にかける(掛ける)」や「お皿がかける(欠ける)」なども
入ってくる。これは漢字も絡んで我々日本人にとってもかなりややこしい。
確かに「マージャンにお金をかける」の漢字は「賭ける」であり、「着る物に
お金をかける」の漢字は「掛ける」である。

すると「ゴルフにお金をかける」は・・・これは困ってしまう。マージャンのごとく、
賭けゴルフであれば「賭ける」であるが、高額なクラブなどを買うのであれば
「ゴルフにお金を掛ける」になる。確かにややこしい。

日本語教師として全ての生徒に公平に目をかけて、いつもやさしい言葉を
かけて、何事も鼻にかけることなく、手塩にかけて育てたい、そんな教師を
目指して命をかける覚悟です。




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