矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 113


☆ 「次第」は次第に分かるぜよ

間もなく仕事の関係で日本に行く日本語上級者に敬語や名刺の受け渡しなどの
ビジネスに関する特訓をした。そして終わった後、打ち上げ会を行ない、ワインで乾杯で
ある。そして彼女いわく、「食事はワインしだいで決まりますね」となかなか洒落た
表現を・・・、ワインにはかなりうるさそうである。

そしてここで「次第」に関してこんな質問を受けた。授業の中で結婚式などの
「式次第」にも触れたのだが、この「ワインしだい」と「式次第」は同じ漢字ですかである。
うーん、なかなか鋭い質問である。確かに漢字は同じであるが意味はまるで異なる。
この「次第」はいろいろな使い方があるので生徒にとって上級になればなるほどややこし
くなり、日本語教師としても大変である。

先ず、「式次第」のようにいろいろな式を進める場合の順序、順番を意味すると教える。でもこれは普通はほとんど使わない。そして次に「天気は次第に悪くなる」などでこの
「次第に」は「だんだん」と同じ意味ですよ、でもこれもかなり硬い表現なので日常会話
にはほとんど使われていない。

そしてさらに「UFOを信じるか信じないかはあなた次第」などの「あなた次第」である。
最近このような言い方をよく耳にするが、これはその人の考え方や物事の事情によって
決まる、ということで、「ワイン次第」も正にこれであり、「It depends」のように英語でも
このような表現はよく使われている。

まだまだある。「満員になり次第締め切る」や「着き次第連絡してください」なども教え
なければならない。これは満員になったらすぐに、着いたらすぐに・・・という意味でよく使
われている表現ある。

ここでちょっとややこしいことがある。このような用法の「次第」を接続する場合、日本語
教育では前の動詞の「ます形」につけると教える。「満員になる」が「満員になります」で
「満員になり次第」となり、「着く」が「着きます」で「着き次第」となる。すると「到着する」や
「回復する」などは・・・。「到着します」「回復します」だから「到着し次第」や「回復し
次第」とならなければならない。しかしこれでは「し」が重なって言いにくい・・・。

そこで日本人は何となく「到着次第」などと「し」を省いて発音している場合が多いの
では・・・。これは文法的には誤りであり、正しくはやはり「到着し次第」だが、確かに
発音しにくい。動詞の種類によってはあまり気にならないものもあるが、「掃除する」など
の「掃除次第」はやはり違和感がある。かといって「掃除し次第」も馴染めない。だから
「終わる」という動詞の力を借りて「掃除が終わり次第」などと言うのであろう。

「先生次第で授業も変る」と言われて素直に喜んでいいものか・・・。また「手当たり
次第に・・・」や「地獄の沙汰も金次第」などの使い方もあり、「次第」は本当にややこ
しい。どのようにしたらすぐ分かってもらえるか・・・、一息ついている次第です。




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