矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 94


☆ 「一人」と「一名」の違いは・・・?

日本語教育において人や物などの「数え方」を教えるのは大変である。何しろ複雑な
数え方がたくさんあるので我々日本人でも戸惑ってしまうのであるから、日本語学習者
にはとても厄介である。

しかしこんなことで日本語が嫌いになってしまうと教師としては困るので、最初はとり
あえず「人」と「犬・猫」そして「物」の三つの数え方を先ず覚えてもらう。すなわち「人」は
「ひとり、ふたり」、「犬・猫」は「いっぴき、にひき」、そして「物」に関しては最初は全て
「ひとつ、ふたつ」と教えている。そのうち段々と物によって「個」、「本」、「枚」や「杯」など
異なる数え方をゆっくり導入していくようにしている。

確かに日本語の数え方は複雑である。その代表例として「タンス」や「うさぎ」などが
よく国語の試験問題に登場してくる。もちろんこんなもの日本語学習者に教える必要は
全くないが、上級者のなかには先生を困らせようと質問してくる生徒もいるので・・・。
ちなみに「タンス」は「棹(さお)」、「うさぎ」はご存知のように「羽」であるが、生徒にはとり
あえず「匹」と教えている。

さて、表題の「一人」と「一名」の違いであるが生徒にしてみれば「人」の数え方は
「一人、二人」と習ったので、この「一名、二名」が出てくると数字の読み方も変わるので、違いがとても気になる。うーん、それは名前が分かっているか分かっていないかの違いで
すよ、と教えているのだが・・・。「名」は基本的に名前が分かっている場合に用いるので
丁寧な表現である。確かにお店などでは「人」の場合は「お二人さま」と丁寧さを強調
するために「お」が必要であるが、「名」にはすでに敬意は含まれているので「お」や「ご」
など付ける必要はなく、まして「二名組強盗」などとも絶対言わないのである。

さらにややこしいのがカレンダーである。これも1日から10日まではカレンダースペシャル
として有無を言わせず、「ついたち、ふつか、みっか、・・・」と覚えさせている。するとこんな
質問がやってくる。どうして「ついたち」だけ「か」がないのですか・・・。

こんなこと考えたこともなかったが、確かに「ついたち」だけ「か」が付いていない。でも
なぜ・・・。これは太陰暦の月の満ち欠けからきており、「月立ち」が訛って「ついたち」と
なり、月の最初の日を表しているとのこと。なるほどね・・・、生徒の質問がなければ
そんなこと調べようともしなかった。改めて日本語教師として生徒の質問のありがたさと
日本語の奥の深さを感じた次第である。

そしてそろそろ日本では年賀状が発売される時期であるが、この頃になるといつも
思い出すことがある。年賀状の数え方である。確かに書く前は「一枚、二枚」と数えるが、友達から届いた年賀状は「一通、二通」と数えたくなってしまう。昔、こんなことを上級者
と話していたのだが、彼女曰く、それはやはり心が通じるから「通」を使うんですか、である。
さすが上級者、そして思わず彼女に「日本語はもう一人前だね」とほめたのだが・・・。
するとまた厄介なことが・・・、この「一人前」の読み方は・・・。




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