矢野アカデミー

バンクーバー新報投稿エッセイ

外から見る日本語 90


「いい気持ち」と「いい気分」は違う・・・?

盛夏の候である。日本の友人宛ての手紙には思わず酷暑の候や炎暑の候などと
書きたくなってしまうが、ここバンクーバーの夏の天気は本当にさわやかで素晴らしい。
そんな夏の1日、日本語教師養成講座の卒業生達と野外バーベキューを行なった。
口々にバンクーバーの天気は「いい気持ちですね」、「いい気分ですね」といいながら
集まってきた。そして現在日本語を教えている卒業生から「気持ち」と「気分」の
違いは・・・、どう教えればいいですかと質問された。

これは日本語教師がよく受ける質問のひとつである。確かに「気持ちいい天気ですね」
はよく使うが「気分いい天気ですね」とは言わない。
また「薬を飲んだら気持ちがよくなった」も「薬を飲んだら気分がよくなった」も両方使う。
でも例えば「この靴下はサラサラして気持ちがいい」は問題ないが、「この靴下はサラサラ
して気分がいい」は何となく不自然である。

確かに我々日本人は無意識のうちにこの「気持ち」と「気分」を使い分けている
のだが・・・。うーん、でもそんなことはあまり気にすることはなく、日本語教育においては
どちらでもいいですよと教えたい。でも上級レベルになるとこの違いが分からないと
とても気持ちが、気分が悪いのである。

 上級者にはこんな感じで教えている。「気持ち」は何かある事を瞬間的に感じるときに
使います。例えば猫の死骸などを見たとき瞬間的に「わー、気持ち悪い」ですね。
一方「気分」は全体的な雰囲気を継続的に感じるときに使います。例えば猫の
死骸をずっと見ていたら「何となく気分が悪くなった」がいいですよ、である。

 するとやはり「気分いい天気」が何となく不自然に感じるのは天気の良し悪しは
瞬間的にすぐ判断出来るからなのであろう。でも本来はこんな簡単に説明できる
ものではなさそうだが・・・。

昔、日本で上級者とお酒を飲みながらこんな話をしたことを思い出した。「お酒を
飲み過ぎて気持ちが悪い」と「お酒を飲み過ぎて気分が悪い」の違いである。この違い
我々日本人は確かに何となく感じる。そうですね・・・、瞬間的に吐き気を感じるような
場合には「気持ちが悪い」がいいですね。また「今朝は二日酔いで・・・」は体全体の
雰囲気を表したいのだから「気分が悪い」のほうが自然な感じがするんですよ、である。
でもこんなことは本当にどうでもいいのだが・・・。

 そしてこんなことが議論になった。「先生にほめられて気持ちがいいです」も「先生に
ほめられて気分がいいです」もどちらも使えそうだが、何となく「気分」のほうが自然な
感じがする。

しかし「矢野先生にほめられるとちょっと気持ちが悪いです」は使えないことはない。
しかし「矢野先生にほめられると気分が悪いです」と言われると・・・確かに私としては
非常に気分を悪くしてしまう。

でもどうして・・・。めったにほめないからこんな表現が可能になってしまったのであろう。
これからはもっと積極的に生徒をほめなければいけないと心に命じた次第である。




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