矢野アカデミー

カナダで出会った「新渡戸稲造」

エッセイ 5


☆ カナダで出会った「新渡戸稲造」
    ≪その知られざる魅力

  D 台湾で大仕事、国際連盟でも !

当時、台湾は日本の植民地であり、農業開発が大きな課題でした。
そこで農学の
専門家である新渡戸稲造に白羽の矢が立ちます。これは
当時の台湾総督である
児玉源太郎と民生長官の後藤新平による強い
要請でした。武士道を出版した翌年
1901年、新渡戸稲造は台湾総督
府の役人となり、技師として砂糖キビの改良に乗り
出します。

 当時の台湾の農産業、特に糖業はひどい状況だったようです。そこで
新渡戸稲造は
念入りに調査し、質の良い砂糖キビを外国より取り寄せ、
戸惑う農民をやさしく説得して、徐々に活気を帯びてきます。砂糖キビの
試験場なども作り、古い製法を改善して、
その後台湾の糖業は大発展
を遂げることになりました。彼の台湾での仕事は2年ほど
でしたが、
「製糖の父」として知られています。


 でも残念ながら、台湾でこのような大仕事をしたことなど、一般の日本
人はほとんど
知らず、歴史の教科書で学んだ記憶もありません。台湾
南部の高雄には日本統治時代の製糖工場跡があり、糖業博物館に
なっています。そこに新渡戸稲造を記念する胸像があると、台湾にいる
生徒が教えてくれました。そこで去年(2016)、胸像に会いたく、台湾を
訪れ、高雄まで足を伸ばしました。台湾に親日的な人々が多いのは
新渡戸稲造がそのきっかけを作ったのだ、と強く肌で感じました。

 

    
   館長さんの了解をもらい、胸像の胸元にカナダ国旗のバッヂを置いてきました

 2014年にUBC
の新渡戸ガーデンに台湾の方から新渡戸稲造の
胸像が寄贈されたのも大いに頷けます。


 日本に戻り、再び教育者として活躍します。京都帝国大学の教授とし
て招かれ、
1906年に第一高等学校(現東京大学教養学部)の校長に
就任しました。教育者らしく
ない教育者として教育界に新風を吹き込み
ましたが、一部の学生や文部省などと意見
の衝突もあったようです。
また
文筆家としても活躍し、「随想録」や「一日一言」などいろいろ
執筆しています。

 そのころの日本は日露戦争に勝ったことですっかり浮かれており、学生の
間でも野球熱が高くなり過ぎ、早慶戦が中止になるなど社会問題に
なっていたようです。第一回目に書いた「出会いのきっかけ」である朝日
新聞の「野球害毒論」もまさにこのころでした。でもなぜあのようなコメント
を出したのかはどうしても理解できず、有識者・新渡戸稲造としては、
かなりマイナスだったのでは、と思えてなりません。

 最近彼に関する本はかなり出版されていますが、これに触れている本は
ほとんどなく、本人もあの世で「野球害毒論」だけは後悔している、と
思わず想像しちゃいました。女子教育にも力を注ぎ、1918年に
創立された東京女子大学の初代校長に就任し、女性向けの雑誌など
も出版して、ますます名声を高めていきます。


 大きな転機がやって来ました。第一次世界大戦が終わると、1920年に
世界平和を目的に国際連盟が作られました。日本代表として新渡戸
稲造にまた白羽の矢が立ち、国際連盟の事務次長に就任します。
58歳、今度はスイスのジュネーブに向かいます。


 スウェーデンとフィンランドの真ん中にあるオーランド諸島は昔から紛争が
絶えず、第一次世界大戦終了後も両国間で領土問題が起こり、出来
たばかりの国際連盟が調停役を務めました。その調停は、「フィンランドが
統治するが、言葉や文化はそのままスウェーデン式とし、オーランド諸島に
高い自治権を与える」。これが「新渡戸裁定」です。状況を熟慮し、
白黒をはっきりさせず、いかにも日本的な裁定としてとても有名であり、
オーランド諸島に平和をもたらしてくれた人として、尊敬されています。
フィンランドでも新渡戸稲造を記念して「桜祭り」が行なわれていると聞き
ました。素晴らしいですね。
          

さらに、
ユネスコの前身となる知的教育委員会を立ち上げ、アインシュタインや
キューリー夫人を引き込んだのも新渡戸稲造であり、国際連盟では
「ジュネーブの星」として高い評価を受けています。


 しかし、国際連盟でこのようなあっぱれな仕事をしたことなど知っている
日本人は少なく、
私も全く知りませんでした。でもなぜこんな素晴らしい
ことを学校で教えないのか・・・
。これらの知られざる魅力的なことをぜひ
歴史の時間に教えるべきだと、強く思った次第
です。

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